『機動戦士ガンダム第08MS小隊』(きどうせんしガンダム だいぜろはちエムエスしょうたい、MOBILE SUIT GUNDAM The 08th MS Team)は、ガンダムシリーズのOVA作品。1996年から1999年にかけて全11話と後日談の特別編『ラスト・リゾート』を制作、1998年には劇場版『ミラーズ・リポート』も公開された。略称は「08小隊」。
物語[]
地球連邦軍パイロットシロー・アマダ少尉は東南アジア戦線に配属されることになったが、そこへ向かう途中に敵と遭遇し交戦、ジオン軍パイロット共々遭難してしまい、そのジオン軍パイロット アイナ・サハリンと生還のため協力することで彼女との間に交流が生まれる。
救助されたのち配属された東南アジア戦線では、アイナと敵味方と分かれて対峙することになる。初めのうちは彼を認めない小隊の仲間や上官に翻弄されながらも、いつしかそんな人たちを仲間として味方につけ、シローは戦場で一兵士として成長していく。
作品解説[]
『機動戦士ガンダム』とほぼ同時期を描いた外伝作品。他のガンダムシリーズと比べて、戦場の生々しさやリアリティを追求した描写が特徴的である。そこに、理想に燃える青年士官 シロー・アマダが主人公として登場することで、戦争の現実とかけ離れた彼の人物像が強烈な印象をもって対比されている。このためシローは劇中、軍務・倫理・色恋のはざまで迷走する[1]。そこで主軸となるのは、戦場において敵兵同士が愛し合うという言うなれば戦場版『ロミオとジュリエット』である。このため、「リアル」なのは兵器のメカニック描写や戦闘のみ[2]であり、作品自体は中村雅俊の学園青春ドラマの戦場版を想定したとのことである[3]。
結末が悲劇だったのかハッピーエンドだったのかについては、ぼかされたまま終わり、それを明らかにするのがエピローグスペシャルエピソード『ラスト・リゾート』である。また第3巻から映像特典として、一年戦争の出来事を紹介するミニストーリー『宇宙世紀余話』が収録されている。
サブキャラクターには『機動戦士ガンダム』でジオン公国軍の人物の声を担当していたベテラン声優が多くキャスティングされている。
本作は本来全12話完結の構想であり、監督は当初神田武幸であったが、製作途中に体調を崩し、第7話から飯田馬之介にバトンタッチする。ストーリーそのものは元々、神田が考えていた筋書きに沿っているが、1996年7月27日に神田が急逝したために、飯田ら残されたスタッフは生前神田が書き残していたメモやプロットを元に第11話までを完成させ、第12話ではなく特別編という形で『ラスト・リゾート』が製作された。本作がやや特殊な形態を取り、また第7話の発売まで1年近く開いているのはこうした事情による[4]。本作は神田の遺作となった。
商業的には出荷ベースでは前作『機動戦士ガンダム0083』を上回る全巻累計115万本(ビデオ・LD・DVD合わせ)を達成。しかしオリコン調べの実売ベースでは『0083』を下回っている。前述のように本作は発売が遅れ、遅れた巻は売上が落ちていった。
角川書店から大河内一楼による小説版、飯田馬之介による漫画版『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 U.C.0079+α』がそれぞれ刊行された。
登場人物[]
「機動戦士ガンダム 第08MS小隊の登場人物」を参照
登場兵器[]
詳細は宇宙世紀の登場機動兵器一覧#機動戦士ガンダム第08MS小隊を参照
一年戦争において連邦軍が勢いを伸ばし始めた頃が舞台であり、登場する兵器もモビルスーツ (MS) だけに偏らず、テレビシリーズ『機動戦士ガンダム』に登場した一見奇抜な兵器をもリメイクして登場させている。
MSがあくまで一兵器として扱われるのは、ガンダムシリーズ全体を通して言える特徴であるが、本作ではその傾向がことさら強い。特に、主人公の乗機は大抵強力な特別機なのが通例なところを、本作では量産機やその改造機を主人公が駆っている。それ以外のメカ描写も細部まで技術考証が徹底された。
一方で、テレビシリーズでは後半(29、30話)に初登場するジムが、10話前後に相当する時期に宇宙で配備されていたり、東南アジアに連邦軍の先行量産型MS大隊がすでに存在していたりと、従来の設定よりも連邦軍のMS配備を大幅に前倒しした作品となった。「映像化されたものが公式設定」というのがサンライズの方針であるが、この件の理屈付けには制作側もやや難儀した[5]。結局、陸上のRX-79[G]、RGM-79[G]に関しては「非常に限られた機体とその部品がごく一部の部隊に配備されたのみ」とされ、宇宙用のRGM-79E[6]は「たまたまジャブロー以外、宇宙のどこかにも工場があってそこで造られた機体が偵察部隊的に使われたもので、ファーストの画面にはたまたま登場しなかった」と説明された[7]。ただ、設定の確定に時間を要したために、主人公メカであるRX-79[G]の愛称は各種メディア上で二転三転している。詳しくは陸戦型ガンダムを参照のこと。
2004年に発行されたムック『アナハイム・ジャーナル』で、本来被弾によって爆発することのないMSの核融合炉が爆発する描写[8]に関連して、アナハイム・エレクトロニクス社の技術者による「一年戦争のアジア戦線を舞台にしたラブロマンス作品」という、本作品が宇宙世紀内での劇中劇であると見なせるような発言が記載されている[9]。
スタッフ[]
- 企画:サンライズ
- 原作:矢立肇、富野由悠季
- キャラクターデザイン:川元利浩、門智昭(『ラスト・リゾート』)
- メカニカルデザイン:大河原邦男、カトキハジメ、山根公利
- 美術監督:池田繁美
- 音楽:田中公平
- 音響監督:浦上靖夫
- 監督:神田武幸(第1話 - 第5話)、飯田馬之介(第6話 - 第11話)、森邦宏/仕舞屋鉄(『ラスト・リゾート』)、加瀬充子(劇場版)
- プロデューサー:植田益朗(サンライズ)、望月真人(サンライズ)、池口和彦(バンダイビジュアル)
- 制作:サンライズ
主題歌[]
- オープニングテーマ「嵐の中で輝いて」
- 作詞:渡辺なつみ/作曲:夢野真音/編曲:見良津健雄/歌:米倉千尋 (キングレコード)
- エンディングテーマ「10 YEARS AFTER」
- 作詞:朝倉京子/作曲:三浦一年/編曲:見良津健雄/歌:米倉千尋 (キングレコード)
- 挿入歌、第11話エンディングテーマ「未来の二人に」
- 作詞:工藤哲雄/作曲:都志見隆/編曲:CHOKKAKU/歌:米倉千尋 (キングレコード)
- 劇場版テーマソング「永遠の扉」
- 作詞:渡辺なつみ/曲:鵜島仁文/編曲:見良津健雄/歌:米倉千尋 (キングレコード)
各話リスト[]
話数 | サブタイトル | 脚本 | 絵コンテ | 演出 | 作画監督 | メカニカル 作画監督 |
レイアウト 作画監督 |
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1 | 二人だけの戦争 | 桶谷顕 | 横山裕一郎 | 西森章 | 杉浦幸次 | ||
2 | 密林のガンダム | 芦沢剛史 | 横山彰利 | ||||
3 | 信頼への限界時間 | 西森章 | 吉田徹 | ||||
4 | 頭上の悪魔 | 西森章 | 日高政光 | 杉浦幸次 | 津野田勝敏 | ||
5 | 破られた待機命令 | 横山裕一郎 | 加瀬充子 | 吉田徹 | |||
6 | 熱砂戦線 | 飯田馬之介 | 横山彰利 | 津野田勝敏 | |||
7 | 再会 | 飯田馬之介 | 加瀬充子 | 杉浦幸次 | 吉田徹 | ||
8 | 軍務と理想 | 飯田馬之介 (GONZO) |
森邦宏 | 横山彰利 杉浦幸次 |
津野田勝敏 吉田徹 |
||
9 | 最前線 | 仕舞屋鉄 | 佐久間信一 高橋晃 |
||||
10 | 震える山(前編) | 北嶋博明 (脚本原案・桶谷顕) |
森邦宏 | 杉浦幸次 | 津野田勝敏 吉田徹 |
横山彰利 | |
11 | 震える山(後編) | 山田弘和 | 津野田勝敏 | ||||
特別編 | ラスト・リゾート | 北嶋博明 | 森邦宏 仕舞屋鉄 |
安東信悦 | 佐藤淳 |
VHS&LD版は第1巻に2話収録でそれ以降は1話ずつ収録の全10巻+特別編、DVD版は3話ずつ収録の全4巻。
宇宙世紀余話[]
- 企画:サンライズ
- 原作:矢立肇、富野由悠季
- ナレーション:玄田哲章
- 監督:アミノテツロー
- プロデューサー:望月真人、寺田将人、真野昇、井上幸一
- 制作:サンライズ
話数 | サブタイトル | イラストレーション | 原画 |
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1 | コロニー建設(宇宙世紀の始まり) | 池田繁美(アトリエムサ) | 土器手司 |
2 | 一年戦争 開戦 | 鈴木雅久 | |
3 | モビルスーツ開発 ジオンの野望 | 佐藤正浩 | 近藤高光 土器手司 |
4 | 一年戦争 オデッサ作戦 | 岡田有章(メカマン) 佐藤仁彦 |
土器手司 |
5 | パイロット編1 シャア・アズナブル | 甲斐政俊 | |
6 | モビルスーツ開発 V作戦 | 岡本英郎 | 土器手司 近藤高光 坂本英明 |
7 | 一年戦争 星一号作戦 | 佐藤正浩 | 近藤高光 坂本英明 |
8 | パイロット編2 ランバ・ラル&黒い三連星 | 岡田有章(メカマン) | 近藤高光 |
9 | モビルアーマー開発 ジオンの野望2 | 伊藤秀明 栗原正史 |
近藤高光 土器手司 湯川高光 |
10 | 一年戦争 終戦 | 南澤貞子 | 土器手司 坂本英明 湯川高光 近藤高光 |
VHS&LD版では第3巻から第10巻までに1話ずつ、ラスト・リゾートに2話収録、DVDではミラーズ・リポートに全話収録。
関連作品[]
劇場版[]
- 機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート
漫画[]
- 機動戦士ガンダム第08MS小隊 U.C.0079+α
- 読みは「きどうせんしガンダム だいぜろはちエムエスしょうたい うちゅうせいきダブルオーセブンティーナイン プラスアルファ」。
- 雑誌「ガンダムエース」2007年3月号より後半の監督を手がけた飯田馬之介によって執筆された漫画作品。全4巻。流れはほぼ原作と同じだが、同作者の漫画『機動戦士ガンダム 宇宙のイシュタム』の続編という形でストーリーが展開するため、エピソードや登場キャラクターが多少追加される等、原作から若干変更がされている。
- 飯田のブログでは2008年の4月に連載打ち切りが決まったとの告知が為され[10]、2009年1月号で連載は終了した。
- 2011年6月には、一冊に纏めた『機動戦士ガンダム第08MS小隊 U.C.0079+α Tribute』も刊行された。
小説[]
- 機動戦士ガンダム第08MS小隊
- 角川文庫刊、著:大河内一楼、イラスト:杉浦幸次。全3巻。ストーリーはほとんどアニメと同じだが、結末や周囲の変化など、細部に違いがある。主人公シロー・アマダの心境の変化や成長が描かれている。
- 機動戦士ガンダム第08MS小隊外伝 TRIVIAL OPERATION
- 読みは「きどうせんしガンダム だいぜろはちエムエスしょうたいがいでん トリヴィアル オペレーション」。
- ガンダムの模型(ガンプラ、プラモデル、ジオラマ)に関連した、雑誌の連載企画、小説、フォトストーリー。後半の監督を手がけた飯田馬之介主導のもと、模型誌『電撃ホビーマガジン』にて1999年1月号から2001年7月号にかけて連載された。文:苑崎透、イラスト:宝谷幸稔。
- 第08MS小隊外伝を冠しているが、本編との直接的な繋がりは無い。第0話「赤いガンダム」、第1 - 2話「海に降る雪」まで連載後、正式な発表の無いまま長期休載に入り、事実上頓挫している。
脚注[]
- ↑ 『アニメ批評』(マイクロデザイン出版局)1999年7月号掲載の飯田馬之介の発言より。飯田はこの中で主人公シローについて「想像力の欠如した男で、大嫌いだった」「ただのバカですよ」とも語っている。
- ↑ 『アニメ批評』1999年7月号掲載のインタビューで飯田は、「やっぱり『08小隊』はメカ物ですよ」とコメントしている。
- ↑ ホビージャパンムック『08MS小隊戦記』(ホビージャパン・1996)の脚本・シリーズ構成の桶谷顕の発言より。
- ↑ 5,1ch化とハイビジョンニューテレシネによるHDリマスター版のDVDBOX「機動戦士ガンダム第08MS小隊 5,1ch DVD-BOX」の、音声特典の檜山修之、井上喜久子、速水奨による「第11話 震える山(後編)」のオーディオコメンタリーの中で、檜山が「収録に3年半くらいかかった」と語っている。
- ↑ ホビージャパンムック『08MS小隊戦記』(ホビージャパン・1996)にて矛盾ではないのか? という問いに、脚本・シリーズ構成の桶谷顕が答えている。
- ↑ この機体が、なぜ終戦直前から戦後に生産されたRGM-79C ジム改と同じ姿をしているのかについては、未だにはっきりとした説明がない。
- ↑ この説明を考案したのはサンライズの井上幸一であると、同じサンライズの河口佳高が語っている。
- ↑ なお、他の映像作品で被弾したMSや核ミサイルが通常以上の大爆発を起こす描写は複数存在している。
- ↑ 『アナハイム・ジャーナル』50ページより。ただし直前の文章にて本作の登場人物であるエレドア・マシスの古いヒットナンバーを流しているという描写もされている。
- ↑ 「本誌人気投票では常時5位以内に入っているのだが単行本の売り上げが悪いため打ち切り決定」「2巻かかって6話までしか進んでいないマンガをあと6回で終わらせねばならぬ」UMANOSUKEのブログ_2008-04-28
外部リンク[]
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